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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)3314号 判決

原告 板橋機械工業協同組合

被告 株式会社宮田商会

主文

被告は原告に対し、金三五〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和三三年一一月三〇日より完済まで年六分の金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は仮に執行することができる。

被告において金三〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは前項の仮執行を免れることができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決並に仮執行の宣言を求め、請求原因として、

一、被告は別紙手形表1、2記載の手形二通を振出した。

二、受取人株式会社和幸こと今村正は右手形を株式会社谷鉄工所に、同会社は原告に順次裏書譲渡し、原告は現にこれが所持人である。

三、原告は右各手形を満期に支払場所に呈示して支払を求めたところ拒絶された。

四、よつて、原告は被告に対し、本件手形金合計三五〇、〇〇〇円及びこれに対する満期当日たる主文表示の日より完済まで年六分の割合の法定利息の支払を求めると述べ、被告の抗弁事実(一)、(二)を否認し、(三)のうち、原告が被告主張の3の手形に白地裏書をしたことは認めるが、その余は争う。

(イ)、仮に、被告が右手形の所持人であるとしても、被告は期限後裏書によりこれを取得したものであるから手形債権の取得につき指名債権譲渡と同様の方式に従うべきものであるところ、民法第四六七条所定の通知または承諾がないから、被告は右手形債権の取得を以て原告に対抗することはできない。

(ロ)、仮に、右主張が理由ないとしても、右債権は満期より一年を経過した昭和三四年八月三一日消滅時効が完成した。

被告は、民法五〇八条により被告のした相殺は有効であると主張するけれども、理由がない。けだし、右法条は時効により消滅した債権の債務者が相殺適状になつた当時その債権者の存在することを了知している場合にのみ適用せらるべきものと解すべきところ、本件において、原告は相殺適状を生じた当時、被告が原告に対し、3の手形債権を有していたことを知るに由なかつたのであるから、同条に基く相殺はその効力を生ずべき限りではない。

立証として、甲第一、二号証を提出し、丙第四号証の二、第五号証の各成立を認め、第三号証の一中原告の裏書部分の成立は認め、その余の部分及びその他の丙号各証の成立は不知と答えた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、

原告主張の一の事実は認めるが、二、三の事実は争う。抗弁として、(一)、原告の前理事長であつた北村慶稔個人が原告より本件手形の裏書譲渡を受けたもので原告は現にこれが所持人でない。(二)、被告は、本件手形を株式会社谷鉄工所の依頼により、いわゆる見せ手形として、手形上の請求をしない特約の下に振出したものであるところ、原告は右事実を知りながら、これを取得したのであるから、被告において手形金支払の義務を負担すべき限りではない。

(三)、被告は原告に対し、次のような反対債権を有する。すなわち、株式会社和幸こと小林正一は手形表3記載の約束手形一通を株式会社谷鉄工所にあて振出し、谷鉄工所はこれを原告に、原告は岩佐作一に、岩佐は被告にそれぞれ拒絶証書作成義務免除の上それぞれ裏書譲渡し、被告はその所持人となつたので満期にこれを支払場所に呈示して支払を求めたところ拒絶されたので、被告は裏書人たる原告に対し二三〇、〇〇〇円の償還請求権を有する。

よつて、被告は昭和三四年一一月七日の口頭弁論期日において、原告に対し有する右反対債権と本件債務(1の手形金全額と2の手形金の内金六五、〇〇〇円)とその対当額につき相殺する旨の意思表示をした。従つて、原告の請求は1の全額及び2の内金六五、〇〇〇円に関する限り失当といわなければならない。

原告主張の(イ)の事実を否認し、被告が3の手形の裏書譲渡を受けたのは、拒絶証書作成期間内たる昭和三三年九月二日であつて期限後裏書ではない。また、期限後裏書に民法四六七条の適用はない。原告主張の(ロ)の再抗弁に対し、被告の原告に対する償還請求権につき消滅時効の完成する前に、これと被告の本件1、2の約束手形金債務と相殺適状にあつたので、被告は民法五〇八条により相殺をなし得ること当然である。

立証として、丙第一乃至四号証の各一、二、第五号証、第六号証の一、二を提出し、証人岩佐作一、斉藤安太郎及び北村慶稔の各証言を援用し、甲号各証の表面部分の成立を認め、裏面の成立は不知と答えた。

理由

原告主張の一の事実は当事者間に争がなく、甲第一、二号証によれば、原告がその主張のような連結ある裏書による所持人であることが明かである。

被告は、その後、原告が北村慶稔に本件手形を裏書譲渡したと主張するけれども、この事実を認めるに足る証拠がなく、本件手形が依然原告の手裡に存すること弁論の全趣旨により明かである。

次に、被告は、原告が悪意の取得者であると主張するけれども、被告の全立証によつてもこの事実を認めることができず、却つて、証人北村慶稔の証言によれば、原告が善意の取得者であることが明かであるから、右抗弁は失当である。

被告の(三)の抗弁につき按ずるに、証人斉藤安太郎の証言により全部につき真正の成立を認め得る丙第三号証の一、二、証人岩佐作一の証言により真正の成立を認める丙第六号証の一、二に右各証人の証言を総合すれば、株式会社和幸こと小林正一が手形表3の約束手形一通を振出し、株式会社谷鉄工所は原告に、原告は岩佐作一に、岩佐は被告に順次拒絶証書作成義務を免除してこれを裏書譲渡したこと(但し、原告の裏書の点は当事者間に争がない)、岩佐は満期の翌日これを支払場所に呈示して支払を求めたところ拒絶されたので、満期の翌々日これを被告に裏書譲渡したものであること、被告は右手形を取得した後、これを呈示しなかつたこと等が認められる。他に、右認定を左右するに足る反証は存しない。

右事実によれば、岩佐の被告に対する右手形の裏書は支払拒絶証書作成期間内の裏書であるから、被告はこの裏書により裏書人たる岩佐と独立して手形上の権利を取得するものというべく、従つて、岩佐が裏書前に右手形を呈示したことは、被裏書人たる被告がその前者に対する償還請求権保全の効力を生じないこと勿論であつて、被告がその前者に対する償還請求椎を保全するには、更に支払拒絶証書作成期間内に振出人に対し、支払の為に手形を呈示し拒絶証書作成義務を免除した前者に対する関係を除き拒絶証書を作成することを要するものである。然るに、被告は、本件3の手形の裏書譲渡を受けた後、支払拒絶証書作成期間内に呈示をしなかつたこと前認定のとおりであるから、前者たる原告に対する償還請求権を失つたものといわなければならないから、右償還請求権を有することを前提とする被告の相殺の抗弁は失当として排斥を免れない。

以上のとおりであるから、原告が被告に対し、本件1、2の手形金合計三五〇、〇〇〇円及びこれに対する満期当日たる主文表示の日より完済まで年六分の法定利息の支払を求める本訴請求は正当として認容し、民訴八九条、一九六条に則り主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男)

手形表〈省略〉

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